螺旋階段(4)

螺旋階段(4)この話はフィクションである。稚拙な創作である。
螺旋階段なんて、どこにでもあるものだ。


 その小説を書くことで僕に対する周りの見方が変わるとか、そういうことを図っていたわけじゃない。だけど何か物足りない毎日の中で、ぼーっとして過ごすよりはその小説について考えている方がまだ建設的だと気付いた。それに、僕が日頃から感じている何か…もやもやしてつかみどころのない気持ちも、物語の主人公に自らの姿を投影し、できるだけ客観的な事実を書いていくことで、新しい何かが発見できるのではないかとも考えた。
 僕は暇があればその小説の続きの展開を頭の中で書いては消し、書いては消しを繰り返していた。そして家に帰ってそれをある程度形にできたところでアップロードしていく。もちろん次の話への繋ぎ方なんて考えていない。その場凌ぎという言葉もこの場合は適切でない。何故って、締め切りは設定されていないわけだから、誰からも凌ぎ切る必要なんてないわけだ。
 僕が向かい合っているディスプレイを後ろから興味深そうに亜季が覗き込んできた。彼女とは同棲しているわけではない。たまに授業が終わった後に家で晩御飯を一緒に食べるくらいだ。彼女の料理の腕はなかなかの目を見張るものがあった。一度作った食事を運ぶ時にひっくり返して僕の部屋をめちゃくちゃにしたことはあったが、そういうおっちょこちょいな部分を差し引いても、料理の手際のよさは際立っていた。最も、一人暮らししている男子学生にとってはどんな手料理でも嬉しいものであろうが。
「やっぱり、そのかわゆい女のコと主人公がくっついてハッピーエンド、になるのかな?」
 亜季は自ら彼女の家から持ってきた、謎のキャラクター(僕には猫にも見えるし、トカゲにも見える。とにかく不思議だ)の描いてあるマグカップを手にしている。どうやらコーヒーを淹れてくれたようだ。僕のは100均で買った洒落っ気のない真っ白のマグカップ。僕はあまりコーヒーを飲まないのだが、最近は寒さも手伝ってか毎日飲むようになった。近所のスーパーで買ってきた特売品のインスタントコーヒーはそろそろ無くなってしまう。僕は、彼女の手からコーヒーを受け取ると再び画面に向かいながら言った。
「何も考えてないんだ、まだ。」
「何も?でも今書いてるんじゃないの?」
僕は受け取ったコーヒーを一口すする。まだ熱くて飲めない。
「そうだね、とりあえず思いついたことを並べていってるだけで、このあとどうなっちゃうのか僕にもわからないんだよ。毎回書く毎にその先が変化してしまうってわけ」
「全体の構成ってものは完璧無視してるんだね」
そう、とだけ僕が言うと彼女はふ〜ん、と言いカフェオレを二口飲んだ。
 彼女は薄手の白いニットにベージュの短すぎないスカートを穿いていた。あまり派手な格好ではないが、髪の色も化粧もおとなしめの彼女には似合っていた。女のコには白い服を着て欲しい、なんて呟いてたのを覚えているわけではないだろうが、彼女は白い服をよく着ていたし、それがとても似合っていた。
「それじゃさ、こういうのはどうかな、突然ミステリーっぽい流れになっちゃうとか。彼女が何者かに殺されちゃうとか…」
「…いやいや、そういうのはまずいよ。僕はミステリーを書きたいわけじゃないし、それに今までろくに読んだことも…」
「あ、密室殺人なんていいよね。昔から考えてたとっておきのトリックがあるんだ」
聞いちゃいない。

Tatsuya/spyral について

ぎりぎりアラサーな雇われ機械設計技術者。工作機械・航空機搭載機器・自動化ラインなど広く浅くやっております。使用可能ツールはCATIA,Inventor,Pro/E(Creo),Femapなど。 岡山県在住。大阪、名古屋に在住歴。熱しやすく冷めやすい、広く浅いオタクです。中学の頃から中二病+PCオタクを発症したままオッサンになりました。二次元ではない嫁を探しています。 ガジェット、カメラ、Android、3Dプリンタ、フィギュア造形、に興味があります。 積ん読好きです。読書目標は100冊/年。
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