螺旋階段(2)

螺旋階段(2) 僕は螺旋階段というものをはっきりと思い浮かべることができない。


 僕の頭におそらく最初に思い浮かんだ映像…それは古びたビルディングの非常階段、鉄製で所々錆びている。どこか頼りなげに描かれた螺旋のその周りにはこれまた錆付いたような鉄製の柵がついている。あたかも檻のような。それは最上階まで達し、利用する人はまるで洗濯機に突っ込まれた腕のようにその中をぐるぐると回り、そして降りていくのだ。その階段を上る人など居やしない。なぜならそれは非常階段なのだから。
 果たしてこれが彼女の言う螺旋階段なのか、もしくは彼女が頭に描いているものはもっと美しく、しっかりしたものなのかもしれない。だが何度考えてみても僕には他の螺旋階段を思い描くことができなかった。そして、螺旋階段のような生き方、というのも。
 「螺旋階段ってさ、しっかりと上に上ってはいるんだけど、上から見ると同じところをぐるぐるぐるぐる、回ってるだけなんだよね。私が言いたいのはそういうこと」彼女は続けた。「私はこれからもずっと歳を取って、何らかの成長をして、上っていくことができると思う。でもね、基本的な生き方というか…芯の部分、階段だと中心部分ね、そこはずっと変わらないんだ」どうやら彼女はご丁寧に図まで描いて説明を行っているらしい。僕は次第に、そこまで熱心に螺旋階段について語っているのがどんな娘なのか気になり始めた。惚れっぽい僕でもさすがに恋愛感情とかそういうのではない。ただどんな顔をしてそんなに真面目に話して居るのかが気になったのだ。
 ランチセットを抱えたまま隣に立ちっぱなしの男がさすがに可哀想になったので、僕はようやく立ち上がることにした。そしてそのついでに後ろに座って居るはずの女学生の顔を拝んでやろうと、そう思ったのだ。どうして男はこうやって女性の顔を見ようとするのが好きなんだろうか、永遠の命題だ。 なんてことを思いながら片手に食べ終えた食器、もう一方に勉強道具のロクに入っていないトートバッグを提げて席を立ち上がる。
 と当時に、視界の隅に彼女の姿を捉えることができた。椅子に座っているため身長はよくわからないが、そう低いというわけではないようだ。髪は今時珍しく黒で、一見おとなしそうではあるが厳しい顔立ちがそれを否定していた。決してお世辞にも可愛いという顔ではなかったし、美人でもなかった。でも一度見るとなかなか忘れられない顔立ちをしていた。
 あまりジロジロ見ていても仕方がないので、僕はそそくさとその場を去った。話の内容も気になってはいたが、それ以上は僕には関係のない話だ。春眠暁を覚えず。僕はまさに満たされた腹を抱え眠気を催していた。教授の声を子守唄に、昼寝でもしよう。そう思いながら次の教室へと向かう。
 今日も長い一日になりそうだ。そろそろ半袖を用意しないと、日中は汗が出るな。
 何も変わらない毎日。

 そして数日後、当たり前のように、僕はその女の子と再会することになる。

Tatsuya/spyral について

ぎりぎりアラサーな雇われ機械設計技術者。工作機械・航空機搭載機器・自動化ラインなど広く浅くやっております。使用可能ツールはCATIA,Inventor,Pro/E(Creo),Femapなど。 岡山県在住。大阪、名古屋に在住歴。熱しやすく冷めやすい、広く浅いオタクです。中学の頃から中二病+PCオタクを発症したままオッサンになりました。二次元ではない嫁を探しています。 ガジェット、カメラ、Android、3Dプリンタ、フィギュア造形、に興味があります。 積ん読好きです。読書目標は100冊/年。
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