螺旋階段(3)

螺旋階段(3) | 螺旋日誌「…なんていう書き出しで小説を書こうと思ってるんだけど、どうだろう?
 タイトルは、『螺旋階段』なんて」


 散らかったテーブル(この時期にはコタツと呼ぶにふさわしい)の上を片付けながら、僕は彼女に昨日書きはじめた小説のあらすじを話した。とは言っても、まだそこまでしか書けてないわけだけど。亜季は最初、急に始まった僕の作り話に驚いたのか、作業をしているその細く可愛らしい手を止めたが、僕の話がそれほど力を入れて聞かなくてもいい、いつもの他愛ない話だとわかると、夕食の準備を再開した。
 話が一通り終わると、材料の下ごしらえも終わったのか彼女はコタツの中にもぐりこんできた。他の場所があいているのにわざわざ狭い僕の隣に座り込む無茶をする。この方が楽なんだって言うけど、僕にはよくわからない。寒い寒い、といいながら彼女はコタツの中で手を擦り合わせている。外はもう相当暗くなっていた。今晩は雪が降ってもおかしくないほどの冷え込みだった。いや、もしかしたら雪は降っているのかもしれないけれど、ベランダまでそれを確かめにいくのも面倒だし、実際二人にとってこの空間が暖かいということ以外に興味は無かった。
 「書けたらWeblogにアップしていこうと思うんだ。書けた分だけね。こんな積み木のような小説の書き方なんて邪道かもしれないけど、少しはモチベーションを保てるんじゃないかな」
「後先を考えないところがあなたらしい」
亜季はそう言うとクスリ、と笑って続けた。
「試みとしては面白いんじゃないかな、でも内容までは私には保証できないかな」
「どうして?」
「だってまだ私は貴方のことを保証できる程知らないし、それに…」
「それに?」
「あなたは作家じゃないもの」

 そうだ。僕はただの学生。
亜季とは大学で知り合った。まるで僕が考えている小説のように…奇怪ではなく、いつも仲良くしてるグループの中の二人だっただけだ。ありふれた学生の二人はありふれた恋に落ち、ありふれた恋人同士としてここに存在していた。幸せなのかどうかすら考える暇も無く、ただその季節を走りぬけようとしていた。

ブックマーク パーマリンク.

Tatsuya/spyral について

アラフォー雇われ機械設計技術者。 試作・工作機械・航空機・自動化ラインなど広く浅くやっております。 岡山県在住。大阪、名古屋に在住歴。 熱しやすく冷めやすい、広く浅いオタクです。 二次元ではない嫁を探しています。結婚しました。 ガジェット、カメラ、Android、プラモ(AFVほか雑食)、フィギュア造形、に興味があります。3DプリンタはZortrax M200、Photon所持していますが大抵遊ばせているのでご依頼いただけれれば出力可能。 フィギュアの造形できないけどなんとなくワンフェス・ガレキ勢。 読書目標は100冊/年。(永遠の課題)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください