森見氏初の「書簡体小説」であるという。登場人物の行動や人物像は、全て主人公であるところの守田一郎氏からの手紙でしか語られないというのがユニークである。
相変わらず情けない大学(院)生を主人公に据えているのだが、森見氏本人も手紙の宛先として登場するなどの趣向も入っている。ちなみに、前作「美女と竹林」でも同様に森見氏本人が登場している。
こういうのはさすがに2作連続でやられると、少し食傷気味である。これではただの目立ちたがり屋ではないか。確かにこれくらいしないと美女を嫁にはもらえないのかもしれないが、それとこれとは話が別である。
作品自体はおもしろくできていると思う。
書簡文だけでここまで阿呆な人物を描いたのは後にも先にも彼一人となるであろう。同時に手紙の持つ魅力というものを存分に知らしめるのに一役買っている。全日本文通協会から特別栄誉賞を頂いてもいいくらいだ。そんな団体あるのかどうかしらんが。
ただ小説として見た場合にさすがにこれでは話の膨らみが小さすぎる。
結局何が起こったのかというと、京都から能登にとばされた大学院生が恨み辛みと恋とおっぱいについて手紙を京都各地へ飛ばす物語であった。
・・・あれ?なんかおもしろそうじゃないか。
でも内輪というか既出ネタが多くて、かなりの森見ファンじゃないとおすすめはできない。ということは、どうやら私は「かなり」じゃなかったらしい。残念だ。