筒井康隆:パプリカ

筒井康隆:パプリカ | 螺旋日誌

パプリカ (新潮文庫)
パプリカ (新潮文庫)

posted with amazlet on 08.03.01
筒井 康隆
新潮社 (2002/10)
売り上げランキング: 60957

 姿も声も知らないはずなのに、読み終えると私もパプリカの虜となってしまっていた。それほどに魅力的なのか、彼女は。ただ、SF物語が作り上げた人格であるはずなのに。

 夢を利用して精神病を治療しようとする試み。その治療に使われる機器は、いつの時代にも先端科学がそうであったように、危険性を顧みず技術力のみを頼りにして作り上げられたものだった。その力を、研究所の覇権争いに利用しようとする派閥が―。
 
 夢の中に入り込む、というモロSF設定でありながら、研究所内の派閥争いという地味でかつ現実的な問題が事の発端であることが面白い。いや、深層心理では単なる派閥争いなどではないのだが、そのあたりは実際に読まないと掴みづらいかと思う。

 登場人物それぞれとの関わりが事細かに記されているので感情移入もしやすい。そして彼らの精神的な弱さなども利用しながらパプリカは戦っていくことになる。支え、支えられ、どこが夢と現実の稜線なのかもわからないまま、戦うのだ。

 パプリカの持つ玄妙なエロスと、それにいやらしさを感じさせない、物語全体を包み込むような中性的な優しさが存在する。物語のどの端を取り出しても、その雰囲気を感じ取ることができるのが実に味わい深い。 

タグ . ブックマークする パーマリンク.

Tatsuya/spyral について

アラフォー雇われ機械設計技術者。 試作・工作機械・航空機・自動化ラインなど広く浅くやっております。 岡山県在住。大阪、名古屋に在住歴。 熱しやすく冷めやすい、広く浅いオタクです。 二次元ではない嫁を探しています。結婚しました。 ガジェット、カメラ、Android、プラモ(AFVほか雑食)、フィギュア造形、に興味があります。3DプリンタはZortrax M200、Photon所持していますが大抵遊ばせているのでご依頼いただけれれば出力可能。 フィギュアの造形できないけどなんとなくワンフェス・ガレキ勢。 読書目標は100冊/年。(永遠の課題)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください