いやはや、ようやく図書館の予約順が回ってきたのだけれど、買ってでももっと早く読んでおくべきだった。これだけ上質のエンタテインメントが1700円+税で買えるなんて安すぎるぞ。
鳥取のとある片田舎にある製鉄会社と、その一族の物語を、三代にわたる女性の周辺について描いていく物語だ。それぞれの代について章があり、つまり三章仕立てである。昭和から平成に続く、60年に渡る世相の動きを親子、そして孫の物語として実に生々しく、そして魅力的に縮写している。
「このミステリがすごい!」などでも紹介されているが、本作はミステリではなく、大河小説と呼ぶのがふさわしいスケールである。最終章ではミステリのような味付けもあるが、壮大な物語における一つの終末でしかない。
読んでいる間に「紅緑村」が実際にあったかのような錯覚に捕らわれ、そこに暮らしそれぞれの時代を生きている人々の生活を想像してみたくなる。
良い物語だった、曖昧だけどそう思える本。