姿も声も知らないはずなのに、読み終えると私もパプリカの虜となってしまっていた。それほどに魅力的なのか、彼女は。ただ、SF物語が作り上げた人格であるはずなのに。
夢を利用して精神病を治療しようとする試み。その治療に使われる機器は、いつの時代にも先端科学がそうであったように、危険性を顧みず技術力のみを頼りにして作り上げられたものだった。その力を、研究所の覇権争いに利用しようとする派閥が―。
夢の中に入り込む、というモロSF設定でありながら、研究所内の派閥争いという地味でかつ現実的な問題が事の発端であることが面白い。いや、深層心理では単なる派閥争いなどではないのだが、そのあたりは実際に読まないと掴みづらいかと思う。
登場人物それぞれとの関わりが事細かに記されているので感情移入もしやすい。そして彼らの精神的な弱さなども利用しながらパプリカは戦っていくことになる。支え、支えられ、どこが夢と現実の稜線なのかもわからないまま、戦うのだ。
パプリカの持つ玄妙なエロスと、それにいやらしさを感じさせない、物語全体を包み込むような中性的な優しさが存在する。物語のどの端を取り出しても、その雰囲気を感じ取ることができるのが実に味わい深い。