タイトルは、『螺旋階段』なんて」
散らかったテーブル(この時期にはコタツと呼ぶにふさわしい)の上を片付けながら、僕は彼女に昨日書きはじめた小説のあらすじを話した。とは言っても、まだそこまでしか書けてないわけだけど。亜季は最初、急に始まった僕の作り話に驚いたのか、作業をしているその細く可愛らしい手を止めたが、僕の話がそれほど力を入れて聞かなくてもいい、いつもの他愛ない話だとわかると、夕食の準備を再開した。
話が一通り終わると、材料の下ごしらえも終わったのか彼女はコタツの中にもぐりこんできた。他の場所があいているのにわざわざ狭い僕の隣に座り込む無茶をする。この方が楽なんだって言うけど、僕にはよくわからない。寒い寒い、といいながら彼女はコタツの中で手を擦り合わせている。外はもう相当暗くなっていた。今晩は雪が降ってもおかしくないほどの冷え込みだった。いや、もしかしたら雪は降っているのかもしれないけれど、ベランダまでそれを確かめにいくのも面倒だし、実際二人にとってこの空間が暖かいということ以外に興味は無かった。
「書けたらWeblogにアップしていこうと思うんだ。書けた分だけね。こんな積み木のような小説の書き方なんて邪道かもしれないけど、少しはモチベーションを保てるんじゃないかな」
「後先を考えないところがあなたらしい」
亜季はそう言うとクスリ、と笑って続けた。
「試みとしては面白いんじゃないかな、でも内容までは私には保証できないかな」
「どうして?」
「だってまだ私は貴方のことを保証できる程知らないし、それに…」
「それに?」
「あなたは作家じゃないもの」
そうだ。僕はただの学生。
亜季とは大学で知り合った。まるで僕が考えている小説のように…奇怪ではなく、いつも仲良くしてるグループの中の二人だっただけだ。ありふれた学生の二人はありふれた恋に落ち、ありふれた恋人同士としてここに存在していた。幸せなのかどうかすら考える暇も無く、ただその季節を走りぬけようとしていた。